1、こどものアトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎とは
わかりやすく言うと
「よくなったり、悪くなったりをずっと繰り返す、かゆみがある湿疹」のことです。
患者さんの多くは
「アトピーになりやすい性質(これをアトピー素因といいます)」
を持っており
左右対称に「全身に」「繰り返し」
できるのが特徴です。
2014年には、45万6000人がアトピー性皮膚炎で治療されています。
年齢のピークは1歳から4歳のこどもが最も多く
小児期に皮膚の状態が徐々に整ってきて繰り返さなくなる場合が多いですが
最近は成人のアトピー性皮膚炎も増加しております。
多くの方が誤解してしまうのは
一部分の湿疹のことを
「うちの子供はアトピーかもしれない」と悩んでしまうことです。
しかし、実際にはアトピー性皮膚炎と診断をするためには多くの診断基準をクリアしなければならないので
アトピー性皮膚炎ではなかったケースもよく見られます
その場合、正しくスキンケアをして、
日常生活でいくつか気を付ければよくなることも多いので
一度悩む前にお近くの病院で相談していただくとよいでしょう。
それ以外にもウイルス性だったり、細菌性だったりする湿疹の場合は早めの治療が必要であったり
周りに移してしまったりという危険性もありますので
「うちの子供はアトピー体質だから、また同じだろう」
と自己診断せず病院に受診するようにしましょう。
2、アトピー性皮膚炎になる原因

アトピー性皮膚炎の原因は
「皮膚のバリア機能低下」と「アレルギー炎症」と「かゆみ」の3つの面から考えられています。
皮膚は、外からの刺激から守るために、天然の保湿成分やセラミドなどの角層細胞間脂質からなる「角質層バリア」で守られています。
アトピー性皮膚炎の方は
これらのバリア機能が弱くなっているため
少しの刺激だけでも皮膚が過敏に反応して、炎症が起こりやすくなるといわれています。
それに加えて
アレルギー炎症といって
ダニや花粉のようなアレルゲンに反応しやすい方は
バリア機能の低下で容易に侵入しやすくなった皮膚の奥でさらに過剰な免疫反応を誘導させ、炎症をさらにひどくします。
こういった一連の流れから、異常信号として体が出すサインが「かゆみ」です。
かゆみの元になっているアレルゲンを除去しようと
脳がどうしても反射的に「爪でひっかいたり」「皮膚をたたいてみたり」してしまいます。
みなさんも経験したことがあるでしょう。
しかし、それがかえって皮膚のバリアをさらに破壊してしまうので
アレルゲンをさらに体に呼び込みやすくなり、かゆみを助長し、悪循環を引き起こしてしまいます。
これが、アトピー性皮膚炎がなかなか治らない原因のひとつです。
3、アトピー性皮膚炎の治療

もともとのアトピー素因として
普通の方より皮膚のバリアが低下していたり
アレルゲンに対して過敏に反応しやすかったりするため、よくなったり悪くなったりとするわけですが
治療のゴールとしてはあくまで
「症状があっても警備で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態を維持すること」
になります。
しかし実際には、「もうかゆくてどうしようもないから病院にきた」
という場合がほとんどになりますので
まずは炎症を抑えることが中心になります。
炎症をある程度取り除いたあと、皮膚のバリアを整えて維持する治療に移行していくことが多いです。
一般的なアトピー性皮膚炎の治療は過敏な炎症を抑えるため、過剰な免疫反応を抑える目的で
副腎脂質ステロイド(ロコイド@やリンデロン@など)やタクロリムス水和物(プロトピック@など)といった軟膏の外用が中心となります。
薬剤の使いわけについては
「どの部位に使用するか」や「どれくらいの炎症が起きているか」
によって大きく異なりますので、
ご自身で判断されずに、必ず病院に相談しながら使用してください。
塗り方は、
「しわの方向にそって」
「横方向に使用すること」
が基本になります。
なぜなら、塗り残しがないようにすることと、縦に伸ばすと、どこまでもぬれてしまい、薄く塗ってしまいやすくなるからです。
ちょうど膜をはるように、こすって塗らないようにしましょう。
「こする」という行為が炎症を引き起こしてしまうからです。
量としては、人差し指の一番外側の節までにのせた量を 1 finger-tip-unit(FTU)といいます。
これが基本単位で、この量が大人の手の平2枚分の範囲で塗るとちょうどいい量といわれています。
目安としては、若干光る程度で、ティッシュペーパーが塗ったあとに、かるく付着するくらいがちょうどいいとされています。
かゆみの悪循環を断ち切る目的で、補助的にはなりますが、抗ヒスタミン薬の内服(アレグラ@やアレロック@など)を使用することもあります。
よくなったら
病院によって治療方針が異なりますが
皮膚のバリアを整える意味で保湿剤(ヘパリン化類似物質[ヒルドイド@]や白色ワセリン[プロペト@]など)を使用することが多いと思います。
これは、今の炎症を抑えるというよりは、バリアを整えて、発生の頻度を減らす目的になります。
一番よくあるのは、「かゆみがなくなったから、何も治療しないで、またかゆみが出たら外用療法を繰り返す」というパターンです。
この場合、たとえて言うなら、火が出ているところに水をかけて消火しているだけで、火の原因を取り除いていないことになるので、ずっと繰り返してしまいます。
根本的な治療は火の原因を取り除くことになるので、むしろ維持期の治療のほうが大切といえるでしょう。
通常は1回の投薬で治ることはまずありませんので、継続した治療が必要です。
4、アトピー性皮膚炎の方が日常生活で気をつけること

皮膚のバリアが崩れる原因は、多種多様にあり患者さんの状況に合わせて説明することが多いです。
ですので、一概に言えることではありませんが、一般的なところについて説明いたします。
例えば、乳児に多いのは、たべこぼしやよだれによる皮膚炎です。
その場合は、食べこぼしたり、唾液がたれてきてしまったりしたら、早めに濡れた柔らかいガーゼでふき取っていただいております。
また、かゆみに敏感になった皮膚では
毛糸やごわごわした素材ですと衣類の刺激が強すぎますので、綿の柔らかい素材が基本になります。
首回りの湿疹では、髪の毛の付着が悪化したり、シャンプーやリンスの洗い残しが原因であることもしばしばありますので(特に女の子)
湿疹が起こる間は髪の毛を上に束ねてもらったり、すすぎをしっかりしていただくことも大切です。
夜寝ている間に掻いてしまって悪化しているような方は
直接こすると、爪の雑菌も入りやすく炎症を起こしやすいので
空調管理をしながら、長袖にしていただいたり、上の服と下の服がボタンで留められるような服を着てもらったりして
とにかく直接かかせないような工夫も重要です。
爪を短くきってもらったりもしています。
夏場はひざしが強かったり汗で悪化する方も多いですので
- 汗をこまめにふいてもらったり
- 衣類をこまめに変えたり
- 日焼けをしないような工夫も必要です。
上記のように、日常生活で気を付けていただきたいことはたくさんあるのですが
お子さんの性格や子育ての状況、お子さんの人数含めて、家庭環境もひとりひとり違います。
したがって、それぞれの家庭環境の合わせて、なるべく日常生活で変えられそうなところを工夫してみるというのが、大切だと考えます。
引用元: 日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン作成委員会:アトピー性皮膚炎ガイドライン2018年度版